間違った経費削減で行き詰るパターン

「経費を削れ」と言われた社長が、言われた通りに経費を削り、会社をさらに追い込んでしまう。
事業再生の現場でよく見かけるパターンです。
1.経費削減で行き詰まったX社
社長:どういうケースが多いですか?
安田:典型例をご紹介します。年商15億の製造業X社です。
数年前に大型の工場投資を行ったことで、労務費や賃借料、支払利息などが増加し、赤字体質に陥りました。メインバンクから「経費を徹底的に削れ」と指導を受け、直営の販売店を次々と閉鎖していきました。
社長:それで改善しましたか?
安田:逆です。売上が10億を切る水準まで落ち込み、大幅な赤字を計上しました。現在は再生支援協議会もお手上げの状態です。
2.川下コストカットの落とし穴
社長:なぜそうなってしまったのですか?
安田:工場に大きな投資をすると、固定費が増えます。固定費は工場の操業度に関係なく発生するので、売上を落とせば落とすほど、固定費の回収が難しくなります。
販売店を閉めて売上を下げるというのは、固定費の回収をより困難にする行為です。銀行に言われるまま、川下(販売側)のコストカットをやりすぎたことが失敗の原因です。
社長:では、どこを削るべきだったのでしょうか?
安田:工場の固定費そのものをどう圧縮するか、あるいは工場の稼働率を上げてコストを回収するか、という議論が先であるべきでした。売上が減れば回収できる固定費も減る、という基本を押さえておく必要があります。
3.部門別損益の罠
安田:X社にはもう一つ問題がありました。不採算店の判定方法が間違っていたのです。
たとえば、A店とB店という販売店があり、次のような業績だったとします。
A店:売上100 - 仕入・人件費・家賃60 = 利益30
B店:売上100 - 仕入・人件費・家賃90 = 利益10
安田:どちらの店も利益が出ています。ところがX社は、部門別損益を採用しており、本部費40を売上比で両店に配賦していました。本部費20をそれぞれ差し引くと、A店は黒字10、B店は赤字△10になります。
社長:それでB店を「儲からない店」として閉めたわけですね。
安田:そうです。しかし、B店を閉めても本部費は減りません。B店が稼いでいた利益10が丸ごと消えるだけです。結果として自分で自分の首を絞めることになりました。
社長:本部費を配賦した損益は、信用できないということですか?
安田:少なくとも、「本部費配賦後が赤字だから閉める」という判断基準は危険です。店を閉めるかどうかの判断には、その店が会社全体の固定費回収にどれだけ貢献しているかを見る必要があります。
経費削減は有効な手段ですが、何を削るかを間違えると、会社をさらに追い込みます。「削れる経費」と「削ってはいけない経費」を見極めることが、経営者の重要な仕事です。
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