自己資本比率が高いのに、なぜMcSSの格付が低いのか?
※税理士・会計事務所の方、支援専門家向けの記事です
顧問先の社長から、こんな質問を受けたことはないでしょうか。
「うちは自己資本比率が30%あるのに、なぜ格付がCなんだ?」
もっともな疑問です。自己資本比率は、財務分析の教科書なら真っ先に出てくる指標ですから。
ところが、McSSの格付を決めているCRDモデルは、自己資本比率をあまり重視していません。代わりに見ているのは「借入に関する3つの指標」と「経常利益」です。
今回は、この仕組みを解説します。
1.CRDスコアの土台は「借入に関する指標」で決まる
下のグラフは、CRDスコアと主な財務指標との相関係数を並べたものです。

左端の3本に注目してください。売上高支払利息率(0.701)、借入金依存度(0.695)、借入金月商倍率(0.634)。いずれも借入に関する指標で、CRDスコアとの相関が飛び抜けて強い。この3つがセットでスコアの土台を形成しています。
一方、右端を見ると、当座比率(0.162)、流動比率(0.114)、固定比率(0.032)。伝統的な安全性指標ですが、CRDスコアとはほとんど相関がありません。
では、自己資本比率はどうか。グラフでは0.641とそこそこ高い数値に見えます。ただし、これは借入金依存度と裏表の関係にあるためで、CRDモデルが自己資本比率に大きな配点を与えているわけではありません。
実際のMcSSデータを検証すると、自己資本比率が一桁台でも「資本の安定性」に●がつかないケースが複数見つかります。●がつくのは債務超過に陥ったとき。CRDモデルにとって自己資本比率は「債務超過かどうか」を判定するスイッチに近い存在で、配点自体はごくわずかです。
2.なぜ借入に関する指標が強いのか
自己資本比率と借入金依存度は、似たような指標に見えます。しかし、不良資産が発生したときの反応速度がまったく違います。

左がBランクの正常な状態。借入金依存度45%、自己資本比率30%です。
ここで不良在庫が20発生したとします。在庫の仕入資金は借入で賄うので、資産と借入金が同時に膨らみます。右の図を見てください。借入金依存度は45%から54%へ、9ポイントも跳ね上がっています。
一方、自己資本比率はどうか。30%から25%への変化です。純資産の金額は変わっていないのに、分母の総資産が増えたぶん比率が下がった。それだけです。
借入に関する指標は、不良資産への反応が速い。CRDモデルはデフォルト(債務不履行)を予測するためのモデルですから、資産の劣化に素早く反応する指標を重視するのは合理的です。
支払利息率も同じです。借入が増えれば利息負担が増え、支払利息率は即座に悪化します。伝統的な安全性指標ではこの変化を捉えられません。
3.もうひとつの急所:経常利益
借入に関する指標はB/S(貸借対照表)側の話です。CRDモデルにはもうひとつ、P/L(損益計算書)側の急所があります。経常利益です。

CRDモデルが重視している利益は経常利益であり、当期純利益ではありません。当期純利益は特別損益で歪むからです。特別利益が出れば実力以上に良く見え、特別損失が出れば実態より悪く見える。経常利益のほうが、企業の収益力を安定的に捉えられます。
経常利益はスコアに対して、総資本経常利益率と売上高経常利益率の2つの形で影響しています。どちらか一方ではなく、この2つが同じくらいの重みでスコアに効いています。
B/Sがほぼ同じ2社でも、経常利益率がわずか1.7ポイント異なるだけで、CRDランクがCとBに分かれるケースがあります。
もうひとつ大事なポイントがあります。赤字でもスコアは上がるということです。経常利益率が▲4%から▲1%に改善すれば、黒字化していなくてもスコアは上昇します。黒字か赤字かではなく、率(%)の改善でスコアが動く仕組みです。
4.顧問先にどう説明するか
ここまでの話をまとめます。
CRDスコアの土台を決めているのは、借入に関する3つの指標(支払利息率・借入金依存度・借入金月商倍率)です。そして、経常利益がスコアを上下に動かします。
自己資本比率が高い=安全、ではない。CRDモデルが見ているのは「借入の重さ」と「本業の収益力」です。
顧問先の社長には、こう伝えるとよいでしょう。
「銀行のスコアリングモデルは、自己資本比率よりも借入の重さと収益力を見ています。御社の自己資本比率は確かに高いですが、借入金の負担が重いために格付が下がっています。改善するには、借入を減らすか、経常利益を増やすか、その両方です」
この説明なら、社長にも伝わりやすいはずです。
5.まとめ
McSSの格付が「自己資本比率の割に低い」と感じるときは、借入に関する3指標(支払利息率・借入金依存度・借入金月商倍率)と経常利益率を確認してみてください。ほとんどの場合、原因はそこにあります。
CRDモデルが何を重視しているかを知れば、顧問先への説明が変わります。そして、改善すべきポイントも見えてきます。
当事務所では、税理士・会計事務所向けに、McSSの読み方と格付改善の実践研修を実施しています。実際のMcSSデータを使いながら、格付の構造を読み解く演習を行います。ご関心のある方はお気軽にお問い合わせください。
