キャッシュフロー計算書をみないとどうなるか

1.キャッシュフロー計算書を見ていない中小企業は多い
社長「キャッシュフロー計算書って、中小企業でも見るべきものですか?」
安田「結論から言うと、必ず見るべきです。ただ、中小企業ではキャッシュフロー計算書を見ていないケースがまだまだ多いというのが現実です。」
安田「見ないままでいると何が起きるか、実際の事例でお話しします。」
2.【事例】数字に強い社長の「思い込み」
社長「ぜひ、その事例を聞かせてください。」
安田「先日、資金繰りの悪化に悩む社長から相談を受けました。」
安田「決算書を見せていただいたところ、前期の営業キャッシュフロー(営業CF)が大幅な赤字になっていました。」
安田「そこで『営業CFが赤字になっています』とお伝えしたところ、社長は『そんなバカな、営業CFが赤字?』と驚かれたんです。」
安田「『PLは黒字です。ただ前々期から前期にかけて買掛金が大きく減ったので、営業CFは赤字になっています』と説明しました。」
安田「するとその社長は、『仕入先からの依頼で、支払サイトが3か月から2か月に短縮されたからでしょう』と。」
安田「『では、それが原因ですね』と応じると、社長はこう続けました。」
安田「『いやいや、それだけではありません。支払サイト1か月分のマイナスをカバーするため、仕入先と交渉して、預けていた保証金を解約しています。だからキャッシュフローは赤字にならないはずです』と。」
安田「『確かに、投資活動キャッシュフローの欄に、戻ってきた保証金が計上されています。しかし、買掛金の減少分をカバーできていないんです』と、私はお答えしました。」
社長「なるほど、保証金の戻りでは足りなかったわけですね。」
安田「そうです。営業CFと投資CFを足したものを『フリーキャッシュフロー(FCF)』と言いますが、この会社のFCFは2期連続でマイナスでした。要するに、儲かっていなかったんです。」
安田「にもかかわらず、金融機関と積極的に付き合おうとせず、返済を進めてしまった。その結果、資金繰りはジリ貧になっていきました。」
3.数字に強い社長ほど「思い込み」に注意
社長「その社長は、数字に弱かったんですか?」
安田「いえ、まったく逆です。あの会話の通り、決してドンブリではありません。むしろ数字に強い社長です。あれくらい語れれば、相当なものです。」
安田「ただ、この社長にはキャッシュフロー計算書をチェックする習慣がありませんでした。税理士からも有効なアドバイスは得られず、半年以上、手を打つのが遅れてしまったんです。」
安田「数字に自信のある社長ほど、こうした『思い込み』に注意しないといけません。案外、全体が見えていなかったりするからです。」
4.「全体」とは1年間の資金の動き
社長「ここで言う『全体』とは、何を指していますか?」
安田「1年間の資金の動き、つまりキャッシュフロー計算書そのものです。」
安田「資金繰りは、年単位で見ないと適切にコントロールできません。」
安田「ところが、キャッシュフロー計算書には、直感に反する動きがあります。」
・売掛金が増える
・棚卸資産が増える
・買掛金が減る
安田「これらが起きると、営業CFは減ります。ここがなかなか難しいところなんです。」
5.「回転日数」で原因を突き止める
社長「たとえば『買掛金の減少1000万円』と書かれていても、ピンと来ないと思うんですが。」
安田「そうなんです。社長には、買掛金が1000万円減るようなことをした記憶がない。だから、なぜ買掛金が減ったのか、直感的には理解できないわけです。」
安田「そこで『回転日数』をチェックします。」
買入債務回転日数 =(買掛金 + 支払手形)÷ 売上原価 × 365日
安田「前の期と比べて回転日数が短くなっていれば、支払サイトの悪化を意味します。」
安田「そうでなければ、売上の減少か原価率の低下によって、買掛金が減ったということになります。」
安田「余談ですが、ユニクロなどはこの考え方を『キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)』という指標で管理しています。」
CCC(日)= 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 − 買入債務回転日数
安田「CCCの日数が短いほど、資金繰りは改善します。中小企業でも、年に一度はこの視点で自社をチェックしてみるといいでしょう。」
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