流動比率はアテにならない

「流動比率が200%以上だから、資金繰りは安心だ」と思っている方は少なくありません。
ところが、中小企業においてこの指標は、ほとんどアテになりません。
1.流動比率とは何か
社長:「流動比率」という指標があると聞きました。どんな指標ですか?
安田:流動比率は「流動資産÷流動負債」で計算します。1年以内に現金化できる資産が、1年以内に支払期限が到来する負債をどれだけ上回っているか、を表す指標です。
一般的に200%以上であれば、資金繰りが安定していると判断されます。
社長:200%以上なら安心ということですね。
安田:それが、中小企業の場合はまったくアテにならないのです。
2.なぜアテにならないのか
社長:なぜですか?
安田:たとえば、次のB/Sを持つ会社があったとします。
流動資産 150 流動負債 50
固定資産 50 固定負債 120
純資産 30
安田:流動比率は150÷50=300%。数字だけ見れば超優良企業です。
ところが、この会社はすでに銀行への返済をリスケしており、資金繰りはボロボロです。
社長:なぜそんなことが起きるのですか?
安田:固定負債、つまり長期借入金が多いからです。長期借入金には毎月の約定返済がつきます。この返済に追われて資金繰りが悪化するわけです。
安田:流動比率を高めるには、流動負債を少なくして固定負債を増やせばいい、という発想があります。しかし、この考え方自体が誤りです。
社長:どういうことですか?
安田:流動負債の主な内訳は、買掛金や未払金、預り金などです。確かに1年以内に支払期限が来ますが、一度返しても、また発生します。商売を続ける限り、実質的には返さなくていい負債です。
一方、長期借入金は毎月、必ず元金を返さなければなりません。返した元金がまた借りられる保証はどこにもありません。
社長:流動負債の方が、実態は怖くないということですね。
安田:そうです。「流動負債より固定負債の方が有利」という前提は、中小企業の決算書では成り立ちません。一年以内長期借入金を流動負債に計上していれば、多少、事情は変わってきますが、計上してい会社の方が多い。
もう一つ大きな問題があります。流動比率の計算には棚卸資産(在庫)が含まれており、在庫が増えるほど流動比率が改善してしまいます。
社長:それはおかしいですね。在庫が増えることが良いとは限らないのに。
安田:根本的な問題は、流動比率がフローを反映していないことです。1期分のB/Sは残高(ストック)だけを映した資料であり、お金の動き(フロー)は表しません。資金繰りはフローの問題ですから、ストックの指標では正確に評価できないのです。
3.銀行は重視しているか
社長:銀行は流動比率をどう見ているのでしょうか?
安田:ベテランはほとんど見ていないと思いますよ。貸したお金が何に使われているか、資産の中身そのものを見ます。
社長:では、流動比率はまったく意味がないのですか?
安田:まあ見た目の問題だけでしょうね。倒産確率をターゲットにしたスコアリングモデルによる格付にもほとんど影響しません。最近の研究から倒産確率に影響しないことが分かってきています。
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