数字に強い社長は仮説を立てて数字を読んでいる
1.現金の動きから利益を読む社長
社長「安田さんのクライアント先に、数字に強い社長がいると聞いたんですが。」
安田「はい。年商100億円近い会社の社長で、30代の方です。毎月の業績をとても気にしていて、いつも試算表のできあがりが待ちきれないんです。」
社長「待ちきれない?」
安田「ええ。試算表ができる前に、自分で利益を予想しているんです。例えば、こんなやり取りがありました。」
安田「社長が『試算表はまだですが、現金の減り方からみて、先月はちょっと赤字だったと思います』と言うんです。」
社長「現金の残高から利益を推測するわけですか。」
安田「そうです。『いつもなら現金がこのくらい残っているのに、先月はこれしかない。だから、チョイ赤だろう』と。」
社長「で、当たるんですか?」
安田「最近、よく当たるんですよ。粗利が変動しやすい業種で、勘定科目も多く、利益の構造は決してシンプルではありません。それなのに、びっくりするような精度です。」
2.仮説を立てて数字を読む
社長「どうやってそこまで数字に強くなれるんでしょう。」
安田「ポイントは、仮説を立てて数字を読んでいることです。」
社長「仮説、ですか。」
安田「はい。この社長の場合、まず『現金の残高の動き』から『前月の利益』を予想します。」
安田「でも、予想が当たらないこともある。そうすると、現金と利益の間にあるもの、つまり売上高や粗利益率、銀行返済などが気になってきます。」
社長「予想が外れた原因を探るわけですね。」
安田「その通りです。そして、実際の数値で検証する。この繰り返しで、どんどん数字力が上がっていくんです。」
安田「要するに、『AがこうならBはこうなるはず』という因果関係の仮説を持って、仮説通りにいかなかったら原因を考える。このプロセスが大事なんです。」
3.的を絞って数字を見る
社長「でも、決算書や試算表って、数字がたくさん並んでいて、どこから見ていいか分からないんですよね。」
安田「まさにそこです。上から順に全部の数字を見ようとすると、かえって訳が分からなくなります。」
安田「だから、『まずAの数字を見て、次にBの数字をチェックする』という風に、的を絞ることが大切です。」
社長「AとBの組み合わせは、どんなものがありますか?」
安田「例えば、『利益→現金』『売上→利益』『売上→在庫』などですね。社長自身が気になっていることなら何でもいいと思います。」
社長「自分が気になることを起点にすればいいんですか。」
安田「はい。関心がないと仮説は立てられません。だからこそ、自分が気になるテーマから入るのが一番です。」
4.安田流の決算書の読み方
社長「安田さん自身は、どうやって決算書を読んでいるんですか?」
安田「私の場合、中小企業の決算書を3期分並べて、だいたい5分で資金繰りの状況を推定します。」
社長「5分で?」
安田「はい。時間を節約するため、損益計算書は読みません。3期分の貸借対照表を横に並べて眺めます。」
社長「えっ、PLを読まないんですか。」
安田「読まなくても、かなりのことが分かります。まず借入金の増減をチェックします。例えば、借入が増え続けているとします。」
安田「次に、繰越利益剰余金を見ます。これがほぼ同額で推移していれば、利益はトントンということです。」
安田「最後に、現預金の増減をチェックします。ここで現預金が減り続けていたら、どうでしょう?」
社長「借金が増えて、利益がトントンなのに、現金が減っている……。」
安田「そうです。借入が増えて利益も出ているなら、現金は増えるはずですよね。現金が増えていないなら、どこかに穴が開いていて、おカネが漏れ出しているということです。」
社長「なるほど。かなりネガティブな読み方ですね。」
安田「超ネガティブです。でも、これがなかなか使えるんですよ。教科書には書いていない読み方ですが、実践を繰り返すうちに、自然とこう読むようになりました。」
安田「社長が数字に強くなるプロセスも同じです。まず仮説を立てる。数字で検証する。外れたら原因を考える。これを繰り返していくだけです。」
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