中小企業の社長が尖らせるべき財務スキル TOP10

中小企業の社長が尖らせるべき財務スキルとは
社長「最近『決算書の読み方』の本がたくさん出ていますね。私も社長として、もっと数字に強くなりたいんですが、何から手をつければいいですか?」
安田「中小企業の社長に必要な財務スキルは、一般的な決算書の読み方とは少し違う方向に尖らせる必要があります。」
安田「上場企業の決算書を読み解くスキルではなく、自社の経営判断に直結するスキルです。」
安田「私の独断と偏見ですが、『これができると素晴らしいベスト10』を発表させていただきます。」
【10位】設備投資→「耐用年数」と「減価償却費」が頭に浮かぶ
社長「第10位は何ですか?」
安田「設備投資と聞いたら、まず『耐用年数』と『減価償却費』が頭に浮かぶ――というスキルです。」
安田「たとえば『1億円の機械を買いたい。耐用年数10年、減価償却費は年間1000万円か――』と、PLの利益への影響をイメージできることです。」
安田「電卓を叩く前に、頭の中でざっくり計算できる方が望ましいですね。」
【9位】金利の問題を「支払利息」で考える
社長「9位は?」
安田「金利の問題を『支払利息』というPLの数字でイメージできるスキルです。」
安田「たとえば『3000万円を余分に借りる。年利1.2%なら、年間36万円、月当たり3万円の利息負担になる』――こうイメージできることです。」
安田「ここまで具体化できれば、『3000万円を手元に持つ安心感と、月3万円の経費増加。どちらが得か?』という比較ができるようになります。」
【8位】設備投資の前に「投資回収期間」を計算する
社長「8位は何でしょう?」
安田「設備投資を決める前に、必ず『投資回収期間』を計算するスキルです。」
安田「投資回収期間は、投資額を何年で回収できるかを示す指標です。」
投資回収期間 = 投資額 ÷ キャッシュフロー
安田「『投資を回収する』という考え方は、経営者の肌感覚とよく一致します。経験豊富で優秀な社長は、回収期間を必ずチェックします。」
安田「一方、どんぶり勘定の社長には、そもそも『投資を回収する』という発想自体がありません。」
【7位】借金は「使ったお金」と理解している
社長「7位はどうですか?」
安田「借金は『使ったお金』だと理解していること。これが7位です。」
安田「銀行借入を情緒的にとらえている社長は、BSへの理解が浅いため、次の理屈に納得できていません。」
借入金は、赤字などに使わなければ、BSの現預金にプールされる。
現金を取り崩せばいつでも返済できるので、その借入金は本当の借金とは言えない。
安田「つまり、運転資金の借入を『いくら借りるか』決めるのは、『いくらの借金を抱えるか』の決定ではなく、『今後に備えて手元資金をどれだけ持つか(手元流動性)』の決定です。」
安田「ここを理解していないと、借りるべき場面で借りない、といった判断ミスを起こします。」
【6位】変動損益計算書を使いこなしている
社長「6位はなんでしょうか?」
安田「変動損益計算書を使いこなしているスキルです。」
安田「インフレ、資源不足、円安の時代に入り、費用を固定費と変動費に分けた変動損益計算書の重要性は、いよいよ高まっています。」
安田「変動損益計算書の目的は、次の3つです。」
・限界利益で固定費を回収する視点を持つ(自社の利益構造を理解する)
・限界利益率を厳しくチェックし、改善させる
・利益予想を容易にする
社長「『固定費・変動費』と聞くと、損益分岐点を思い出すんですが。」
安田「損益分岐点は、必ずしもメインディッシュではありません。むしろ『限界利益で固定費を回収する』という視点こそが、本質です。」
【5位】「節税」の正体を知っている
社長「5位は?」
安田「『節税』の正体を知っているスキルです。」
安田「以前読んだ著名なコンサルタントの本に、こんなことが書いてありました。『融資を受けないと、会社を成長させることはできない。銀行に支払う金利は税務上の損金だから、借入は節税にもなる』と。」
安田「前半の『融資を受けないと成長できない』は、投資すれば儲けられる状況を前提にすれば間違っていません。成長には投資が必要で、投資には融資が必要だからです。」
安田「一方、後半の『借入は節税にもなる』は、なんだかヘンです。」
社長「確かに、金利は損金になりますが…。」
安田「『節税になる』という理由で融資を受けますか?」
安田「本来は『儲けられるから、融資を受けて、投資する』というだけの話です。『節税にもなる』は副次的な話で、判断の主軸ではありません。」
安田「社長に必要なのは、『お勉強』ではなく、健全な猜疑心をもって、本質や正体を見抜くことです。」
【4位】「投資にはリターンが必要」と決算書を見ている
社長「では、4位はなんでしょう?」
安田「『投資にはリターンが必要』と考えて決算書を見るスキルです。」
安田「設備投資や人材投資を行ったら、その分、売上と利益が増えないといけない――この発想は皆さんお持ちでしょう。」
安田「ところが、実際にその目でBSとPLを見ているかというと、できていない社長は多いんです。」
社長「たとえば、どう見るんですか?」
安田「2021年のBSで有形固定資産が増えたら、2022年のPLでは、原則、売上が伸びていなければなりません。」
安田「有形固定資産が増えたなら、設備にお金を使ったということです。そのリターンを次の決算でチェックするわけです。」
安田「人件費も同じです。人件費の増加を『ただのコスト増』ではなく『インプット』と考える。そして翌期以降の決算で、増収や増益というアウトプットを確認する。」
安田「こうした思考回路は、銀行への決算説明の質にも直結してきます。」
【3位】繰越欠損金の重要性を知っている
社長「3位は?」
安田「繰越欠損金の重要性を知っているスキルです。繰越欠損金の活用は、財務体質改善の超重要ポイントです。」
安田「たとえば、利益をあげて借入金を減らそうという場面では、利益にぶつける繰越欠損金がどれだけ残っているかで、返済スピードは大きく変わります。」
社長「税金の話はややこしいですね。」
安田「そうなんです。このテーマには、罠が仕掛けられています。」
安田「たとえば、『繰越欠損金に合わせて利益をあげよう』――これは違います。」
安田「正しくは『利益をあげよう。その利益にぶつける繰越欠損金を探して計上しよう』です。」
社長「えっ、その違い、ぱっとは分かりません。」
安田「私もいまだに混乱します。ただ、考える順番が決定的に違うんです。『利益が先、繰越欠損金は後からぶつける』と覚えてください。」
【2位】PLの利益は「甘い基準」で計算されている
社長「いよいよ2位ですね。」
安田「PLの利益が、税務会計の甘い基準で計算されていると知っているスキルです。」
安田「最近、M&Aのミーティングに参加する機会が増えています。その中で、売り手側の社長が『値段のつけ方』にショックを受けるケースが少なくありません。」
社長「どうしてですか?」
安田「会社を売るときの値段は、売り手と買い手が自由に決めるものです。ただ、ベースになる金額があり、それは主に純資産とPLの利益で決まります。」
安田「たとえば、PL利益の3年分を『のれん代』にする、EBITDA(営業利益+減価償却費)の10倍を事業価値とみなす、といった計算方法です。」
安田「ここで、PLの利益は『正常収益力』という厳しい基準で再計算されます。」
安田「M&Aのコンサルは、こう言ってきます。『御社のPLを拝見しました。役員報酬が安い、家賃が安い、棚卸資産評価損を計上していない、減価償却費が少ない、退職給付引当金も計上していない――よって利益は実質ゼロ以下です。のれん代はタダになります』と。」
社長「それは厳しい。」
安田「『これだけ得意先を抱えている会社ののれん代がタダって、おかしいだろう?』――そう反論したくなりますが、計算してみると、確かに儲かっていない。」
安田「つまり、中小企業のPL利益は、税務会計の甘い基準で計算されているわけです。」
安田「決算書が黒字になっていたら、普通は『黒字だ、嬉しい』と思いますよね。だからこそ、キャッシュフロー計算書のチェックが重要になります。キャッシュは真実だからです。」
【1位】1年後の現金残高を予想できる
社長「いよいよ1位ですね。」
安田「1年後の現金残高を予想できる――というスキルです。」
安田「『1年後の御社のBS、現金残高はいくらになりますか?』――この問いに、経理の作った資金繰り予想表に頼らず、頭の中で計算して答えられる社長は、本当に優秀です。」
安田「1年後の現金を予想するスキルというのは、要するに危機察知能力です。このスキルが高い社長の会社は、対応が早いので、そう簡単には倒産しません。」
社長「でも、最近は資金繰り表を作っていない会社も多いですよね。」
安田「そうですね。銀行から『出せ』と言われなくなったので、作らなくなった会社は増えています。」
安田「ただ、資金繰り表を毎月チェックすることで、資金収支の仕組みが見えるようになります。」
安田「資金繰り表を理解している社長の話は、必ず『具体的』です。そして、その具体性が、いざという場面で銀行からおカネを引っ張る強力な武器になります。」
安田「資金繰り表に加えて、キャッシュフロー計算書を理解できれば、より長い期間の現金予想ができるようになります。」
安田「事業の儲けがゼロなら、銀行返済分だけ、現金は減っていく。キャッシュフロー計算書を理解している人には当たり前の話です。理解していない人には、こういう発想自体がありません。」
安田「私は、現金を減らしすぎて倒産する会社を、過去にいくつも見てきました。最近も、コロナ融資を使い果たして危機的な状況に陥った会社から、ご相談を受けています。」
安田「だから、このスキルを『ぶっちぎりの1位』とします。」
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