社員が辞めない会社をどう作るか?
中小企業の人手不足・人材難が深刻化しつつあります。私自身も、顧問先の支援を通じて、この問題にどう向き合うべきか、頭を悩ませています。
人手不足は、「応募が少ない」+「社員が辞める」によって起こります。
応募が少ないのは会社の見栄えが悪いからと考え、ホームページを作り直したりするわけですが、若い社員がぽつりぽつりと辞めていくような会社は、「社員が辞めない会社をどう作るか」をまず考えた方がいいと思います。
社員が辞めていく会社が、採用にいくら力を入れても、人手不足は解決しませんし、
・良い会社に変わることによって、優秀な人材からの応募が増える
という好循環を期待できるからです。
以下では、中小企業の取り組み事例を紹介します。
1.ベテラン社員が集まって「若い社員の教育方法」を議論する(X社の例)
X社では、採用した若手社員が1~2年で退職するケースが相次ぎ、次世代へのノウハウの承継が重要課題になっていました。
若い社員の退職には、次のような点が影響していました。
・「背中を見て仕事を覚える」が根付いており、計画的な教育を行っていない
・周囲が新人社員に声をかける、といった励ましを行っていない
X社では、社長とベテラン社員9名が参加する「会社の未来を検討する会」を立ち上げ、この問題を議論することにしました。
検討会のルールは以下の通りです。
★ 目線を高くもつ。目線の低い話(ヒトの悪口、セクショナリズム)は厳禁
★ 参加者全員に均等に話す時間が与えられる(役職の上下は関係ない)
目的の「全社員を幸せに」は、ある程度の年齢に達したベテラン社員には“必ず刺さる”と言っても過言ではないキーワードです。
1人1人は違うことを言っていても、目的を「全社員を幸せにする」に設定すると、不思議と意見がそろってきます。本心では誰もがそうありたいと願っているからでしょう。
検討会では、たとえば、『若手社員を教育する上での「良い行動」と「悪い行動」』を議論し、実行計画を立てたりします。
司会の私は、「こういう会議を毎月やっている会社には、いずれ必ずヒトが集まるようになるはず。何はともあれ続けましょう!」と話しています。
X社のように社風をリセットしたい場合は、ベテラン社員の行動を直接変えようとするのではなく、会議やプロジェクトを立ち上げて、雰囲気を作っていくのがよいと思います。(ド直球のボールを投げても頑固なヒトは変わらないので)
2.退職防止の基本は1対1の面談(Y社の事例)
Y社の社長は、会社帰りの電車でたまたま一緒になったパート社員から「休みを取れないことを誰にも相談できず、悩んでいます」と打ち明けられました。
社長は、すぐに全パート社員と個別に面談を行い、対策を講じましたが、「もし電車で一緒にならなかったら、どうなっていたか・・・反省している」とおっしゃっていました。
私は、企業診断で、従業員インタビューを行いますが、ヒトが辞める会社には共通する特徴があります。
それは、社員が抱える不平不満や悩み事に対して恐ろしく鈍感である点です。
社員が退職するパターンを社員目線で示すと、次のようになります。
(2) 上司や社長に小声で相談する
(3) 何も変わらない → (1)に戻る
(4) 何を言ってもムダと悟る
(5) 退職を決意する
退職する社員は本音を語らず去っていくため、社長は、「あら、辞めちゃうのね」という感じで問題の正体に気づきません。(たとえば、親の介護を理由に退職する社員が、理不尽な上司の態度に悩んでいたなど)
退職を防止する、もっとも地に足の着いた方法は「社長vs社員」「直属の上司vs社員」「経営コンサルタントvs社員」で1対1の面談を行うことです。
最近、1on1(ワンオンワン)というマネジメント手法が注目されていますが、必ずしも定期的な面談にこだわる必要はないと思います。
ミーティングを行った際などに、社員の顔色を見て、何かあると思ったらすぐに1対1に持ち込むようにすれば、それだけで強力な退職防止策になります。
ただし、社員の微妙な変化に気づけるかどうかは、上司の性格に大きく左右されるので、1対1を任せっぱなしにしないことが大事です。
ちなみ、私の経験では、社員が「給料をあげてください」と社長に直談判してきて、ゼロ回答で済ませた場合、その社員は高い確率で会社を辞めます。
しかし「給料をあげて欲しい」と本音が出てくるのはいいことです。
社長は、こうした社員の要望を力で抑え込もうとする「昭和的な思考回路」を完全に捨て去るべきです。
3.中小企業で働くメリットとは?(Z社の例)
先日、2代目社長のZ社長(45歳)と、若手人材の確保策について話し合いました。
「若い人材が当社のような中小企業で働くメリットは何か?」から議論を始め、最終的に次の3つのことが必要、という結論に至りました。
(2) 社員の自立化(イザという時に食いっぱぐれない)を経営目標に掲げる
⇒ 資格取得や大学進学(通信教育)まで支援する
(3) 社員が転職を希望した際には、笑顔で送り出す
(1)は、中小企業の経営コンサルタント(と呼ばれる人たち)が何十年も前から言っていることです。
赤字の時に給料をあげるのは大変ですが、社員が転職する場合の給与水準を想像して、微調整するくらいのことなら、どんな会社でもできますし、逆にやらないといけません。
(2)のようなスキルアップの支援を「できれば、やりたい」と考えている社長は少なくないと思いますが、経営方針に掲げて実行している会社はほとんどありません。
そこそこの給料をもらえて、資格取得や大学進学まで支援してもらえるなら、若いヒトからみて、かなり「いい会社」になるのではないでしょうか。
私自身も、学生時代は勉強せずに過ごし、会社に就職してから勉強し始めたタイプなので、絶対にコレ(リカレント教育の支援)をやりたいと思っています。
(3)の「転職する社員を笑顔で送り出す」は、社長自身がどのくらい切実に社員の幸せを願っているか?経営理念やビジョン、人生観の問題と言えるでしょう。
Z社長は、社内で出戻り社員2名が活躍していることもあり、「長い目で見れば、社員を引き止めない方がプラスになる」と考えています。
この太っ腹な姿勢(?)には、社員が「辞める」と言ってきた時、社長自身が「傷つかなくて済む」というメリットもあります。
4.公平な人事にこだわりすぎない
中小企業でも、案外、年功序列的な処遇を行っている会社が少なくありません。
たとえば、賞与を支給する際、50歳以上の役職者に一律で多額の賞与を支給する一方、若い社員には雀の涙しか渡さない、など。
賞与の考え方には諸説ありますが、財務的には「将来に向けた投資」です。
誰にたくさん払うと、会社の未来がひらけるか?
人手不足に悩む中小企業なら、若手社員やパート社員でしょう。
本来は、1人1人の社員をよく観察して支給額にも差をつけるべきですが、やっていない会社が多いです。
上記のY社では、「給料が少なくて、生活が厳しい」という理由で、優秀なHさん(30歳)が辞めてしまいました。
あの時、Hさんに周りの社員の2倍の給料を払うことを約束して、部門ごと任せていたら、たぶん成功していたと思います。(いまさらですが)
みなさんの会社でも、そういう経験、ありませんか?
能力や期待値に応じて、社員間の給料に差をつけないと、中小企業が優秀な人材を確保するのは難しいと思います。