なぜ銀行は中小企業に本気で寄り添わないのか
銀行に「経営を安定させる方向に導いてほしい」と期待している社長は多いのではないでしょうか。
しかし現実には、銀行は中小企業にとって本当に役に立つアドバイスをほとんどしてくれません。
なぜそうなるのか。その構造的な理由を解説します。
1.銀行員の本音
社長「うちの担当の銀行員は、財務の話をしてもあまり突っ込んでこないんです。」
安田「それは珍しいことではありません。銀行員にとって重要なのは『貸せるか、貸せないか』です。借り手の将来への影響は二の次になっています。」
社長「でも、先日は『もっと借りませんか』と勧めてきましたよ。」
安田「それは銀行員自身のノルマを満たすための言葉です。自分の都合を優先しています。」
社長「悪気はないんでしょうけど。」
安田「ないでしょう。しかし、銀行員にのせられて借りすぎると、無駄に財務を痛めます。私は過去に、そうやって借金が膨らんだ社長を何人も見てきました。」
2.昔の銀行員はどう違ったのか
社長「昔の銀行員はもっと厳しかったと聞きますが。」
安田「まったく違いました。昔は『メインバンク制』が機能していたからです。」
社長「メインバンク制というのは?」
安田「メインバンクは『最後の貸し手』でした。企業が危機に陥っても、他行が手を引く中で最後まで支援を続ける存在です。その代わり、平時から経営に深く関与し、厳しい指導も行いました。」
社長「厳しい指導というのは?」
安田「『借入を減らしなさい』『無駄な投資はやめなさい』と、企業のために苦言を呈していました。業界動向や競合の状況にも通じていて、経営者にとって頼れる相談相手だったのです。」
3.メインバンク制はなぜ崩壊したのか
社長「その仕組みが壊れたのはいつですか。」
安田「1990年代後半から2000年代にかけてです。バブル崩壊後の不良債権問題と、政府主導の護送船団方式の解体が主な要因です。」
社長「決定的だったのは?」
安田「1999年に導入された『金融検査マニュアル』です。銀行の健全性を厳しく評価する仕組みが導入され、『最後の貸し手』という姿勢は否定されました。銀行は『選別する銀行』に変わったのです。」
社長「『うちのメインバンクは○○銀行だよ』と言っても、昔とは意味が違うわけですね。」
安田「その通りです。今のメインバンクは、単に融資残高が一番多い銀行にすぎません。リスケになっても、他行返済分を肩代わりしてくれることはありません。横並びで返済猶予に応じるだけです。」
4.銀行の人材不足
社長「最近の銀行の担当者は、決算書の話をしても反応が薄いんです。」
安田「大手行でも、決算書がまともに読めない銀行員が増えています。」
社長「なぜそうなったんですか。」
安田「超低金利の長期化で、銀行は融資業務を軽視し、投資信託や保険の販売に注力してきました。金融商品の販売と融資業務では、使う脳がまったく違います。」
社長「融資には何が必要ですか。」
安田「財務分析、業界知識、不動産評価、法務、税務。幅広い知見が要ります。金融商品販売との兼務では、これらを身につけるのは難しいでしょう。」
社長「ベテランはどうなったんですか。」
安田「事業再生の経験を持つベテラン銀行員は、定年でどんどん退職しています。企業の現場を知る貴重な人材が、銀行から姿を消しているのです。」
5.金融庁の方針と現実のギャップ
社長「金融庁は銀行に何を求めているんですか。」
安田「メインバンク制で銀行がかつて行っていたことです。事業性評価、伴走支援、経営改善支援。2026年5月から始まる『企業価値担保権』も、メインバンクに継続支援を促す枠組みです。」
社長「制度はあっても、できる人がいないということですか。」
安田「そういうことです。変われるのは、中小企業に向き合い、行員一人ひとりの能力向上に本気で取り組む銀行だけでしょう。」
6.社長はどうすればいいのか
社長「銀行に期待できないなら、社長はどうすればいいですか。」
安田「銀行に経営判断を委ねないことです。」
社長「具体的には?」
安田「3つあります。まず、『もっと借りませんか』と言われたとき、本当に必要かどうかを自分で判断する。銀行員の提案を鵜呑みにしない。」
社長「2つ目は?」
安田「自社の財務状況を自分で把握する。決算書を読めなくても、営業利益と借入金のバランスくらいは押さえておく。数字が分かっていれば、銀行員の言葉の裏が見えてきます。」
社長「3つ目は?」
安田「銀行以外の相談相手を持つ。税理士でも中小企業診断士でも構いません。銀行とは利害関係のない第三者の目が入ると、判断を誤りにくくなります。」
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