粉飾が見抜けない?地銀の与信費用倍増と来年の見通し
すでに報道されている通り、2019年9月中間期の地銀の不良債権処理費用が前年同期の2倍に膨れ上がりました。
不良債権処理費用(与信費用)とは、銀行が、貸出先の経営破綻に備えて計上した貸倒引当金や貸倒損失のこと。業績悪化で返済不能に陥る貸出先が増加したため、地銀は貸倒引当金を積み増さざるを得なくなったのです。
なぜそうなったか?
アベノミックス以降のカネ余りと銀行間の競争激化を背景に、地銀は融資審査を甘くして、財務内容の悪いミドルリスク先への貸出を増やしてきました。
それがいま、じわじわと不良債権化してきているのです。
10年前の金融円滑化法でリスケに応じた中小企業の倒産も増えてきています。
リスケで資金繰りを回していた企業においても、経営者は高齢化しており、「将来性が見込めない」「後継者がいない」を理由に会社を畳むケースが増加しているのです。
11月13日、全国地方銀行協会の会長が「融資先で粉飾がみられるようになった」と中小企業の財務粉飾問題に言及しました。
決算書を粉飾した中小企業が「突然死」するケースが目立つというのです。地銀協の会長の言うくらいですから、よほど多いのでしょう。
最近の銀行はどこでも、決算書の数字から倒産確率(デフォルト率)を予想するスコアリングモデルを利用しています。
100万社以上のデータで構築されたスコアリングモデルを使えば、当然、決算を粉飾した会社の財務格付ランクは低くなります。
たとえば、信用保証協会が使っているCRD3で、在庫を水増ししている会社を判定すると、A~Eランクの5段階評価でD以下になることが多いです。もちろん程度にもよりますが、キャッシュフローや借入金の動きでランクが下がるのです(この辺のバランス感覚は人間の能力を超えていると思います)。
にもかかわらず、銀行が粉飾決算にダマされるということは、
① 融資のハードルを著しく下げている
② 決算書を深読みできる銀行員がいない
③ 悪質な粉飾が増えている
のいずれかでしょう。
11月22日のニッキン(社説)によると「19年に粉飾倒産した中には20を超える金融機関ごとに決算書を作成し、15年間粉飾を続けていた事例」があったそうです。
財務粉飾もこのくらい悪質になると、スコアリングは通用しません。他の金融機関の借入をゼロに見せかけるなどしているからです。
にわかには信じがたい話ですが、もしこんなケースが増えているなら、ひっかかった銀行の状況は深刻でしょう。
地銀の不良債権について、専門家の見方は「本格的に不良債権処理費用が増えるのは、むしろ来年度以降」というものです。
潜在的な不良債権をどのくらい抱えているか?この問題は我々の経営にも影響してきます。
不良債権処理費用がかさんでくると、銀行は、新規の貸出に過度なくらいに慎重になるからです。
来年は、貸しはがしとまではいかなくても、融資姿勢を引き締める銀行が多くなると思われます。
たとえば、これまでプロパーで貸していたものを「保証協会付融資でどうか」と言ってくるかもしれません。
最近の保証協会付融資は銀行のプロパー融資と折半で貸し出す形が主流になっています。
このため、保証協会はOKしたが、銀行がOKしないため、保証協会付融資が受けられないというパターンをよく目にします。
対応策としては、やはりデフォルトしにくい決算書を作って、評価を下げないことが一番でしょう。
そして、できるだけ複数の金融機関と仲良くしておくことも大事です。
最近、「金融円滑化法が企業の新陳代謝を妨げた」「ゾンビ企業を甘やかすな」といった論調の報道が増えているような気がします。
働き方改革もそうですが、中小企業が大資本に飲み込まれていく方向に政策が展開されていると感じます。