前社長時代の不良債権を処理した事例
銀行業界では、昨年から、決算書を粉飾した中小企業が「突然死」するケースが目立つようになり、問題になっています。
粉飾決算は次の3つに分かれます。
1.金融機関ごとに異なる決算書を提出する、関係会社を使って架空売上を計上する(循環取引)など、手の込んだ粉飾で、銀行に見つかると一発で信用を失うもの
2.減価償却費の未計上、在庫の水増し、仕入の計上先送りなどの赤字隠し
3.過去に発生した不良在庫や不良債権などを処理せず、BSにそのまま計上(塩漬け)
粉飾がNGであることは言うまでもありません。
しかし、3については、過去に抱え込んだ不良資産をどう処理するかという問題であり、現在の売上高や営業利益を塗り替える1~2とは性質が異なります。
ある2代目社長は、前社長時代に発生した「関係会社に対する1億円の貸付金」の処理について悩んでいました。
関係会社の決算は大赤字で、貸付金1億は明らかに不良債権でした。銀行の目を気にして、BSに残していますが、いずれは貸倒処理しなければなりません。
一方、本体会社の業績は好調で、今期は3000万円の利益が見込まれました。
繰越欠損金が残っておらず、このまま決算を迎えると900万円程度の法人税(3000万円×30%)を負担しなければなりません。
社長と私は、取引銀行から貸付金の認識を聞き出すことにしました。
「当社の1億の貸付金をどう見ていますか?」
すると、すべての金融機関が「資産としての価値はないと考えている」と回答してきました。
つまり、銀行は貸付金をゼロ円で評価して、本体会社の信用格付を行っているわけです。
そもそもゼロで評価しているなら、貸付金を貸倒処理しても、銀行の評価は変わらないはずです。
そこで社長は、専門家と相談の上、関係会社を特別清算し、貸付金を貸倒処理することにしました。
結果、本体会社は1000万円の債務超過になりましたが、法人税を節約でき、銀行の評価も維持することができました。
ある銀行の担当者からは、「不透明な貸付金がなくなり、かえって融資をしやすくなった」とも言われました
今後は、貸倒処理によって生じた繰越欠損金で法人税を節税しながら、借入金の返済を進める予定です。
この事例にみられる通り、不良資産の処理は、金融機関に探りを入れ、確認をとった上で行うのが無難です。
また、税務メリットの有無が重要テーマになるので、早めに税理士に相談するようにしましょう。