金利のある世界が復活 社長が押さえるべき金利の知識
今年3月、日銀がマイナス金利政策の解除を決定したことで、「金利のない世界」から「金利のある世界」に移行しました。
すでに多くの中小企業が銀行から貸出金利の引き上げ要請を受けていますが、金利は「交渉事」です。
たとえば、「日銀の政策変更により、金利が上昇しています。ご融資の金利についても、これまでの1%から2%への引き上げをお願いします」と言われたとき、「はい、わかりました」とあっさり応じる社長は、その後も事あるごとに金利を上げられていくでしょう。
この場面で、社長が「なぜ1%上がるのですか?詳しく説明してください」と理由を問えるだけの知識を持っていれば、上げ幅を抑えられるかもしれません。
そこで、金利のある世界において、銀行が何を根拠に金利の引き上げを要請してくるかを金利の種類別に解説します。
10年物国債利回りをベースとする長期の固定金利
例えば、2019年に融資を受けた借入期間5年の運転資金借入(固定金利)の期限が近づき、再度、同じ条件で借り入れようとしたら、銀行は「前回の金利は無理です」と言ってくるでしょう。
長期金利(10年物国債利回り)が上がっているからです。銀行の長期固定金利は10年物国債利回りがベースになっています。
10年物国債利回りは、アベノミクス「異次元の金融緩和」により、ゼロに近い水準に抑え込まれていました。
植田日銀総裁が就任して方針変更を打ち出した頃から、上がり始め、今は1%前後で推移しています。
このため、5年前に1%未満で借りていたものを、今借り換えると1.8%とか2.0%くらいになってもおかしくありません。
まだ影響を受けていない会社も、次の借入の際に金利引き上げを要求される可能性が高いので注意しましょう。
なお、10年物国債の利回りは、証券会社や日銀のホームページで確認することができます。
市場金利に連動する金利
借入契約書の適用利率の欄に「市場金利+○%」と書いてあったら、その融資は市場金利連動型で借りた融資です。
ここで言う市場金利とは、銀行同士で短期のお金を貸し借りするインターバンク市場(無担保コール市場)で用いられる金利のことです。
インターバンクや無担保コールと言われてもピンときませんが、「今日借りて明日返す」という取引が銀行間で行われており、そこに金利がかかるようになっているのです。
○%の部分は銀行の利ザヤ部分(儲け)です。この利ザヤ部分は調達と貸出の金利差(スプレッド)を表すので、こうした融資は「スプレッド貸」と呼ばれます。
スプレッド貸の特徴は「金利の低さ」にあります。たとえば、0.5%くらいの低い金利の借入は、多くの場合、スプレッド貸です。
市場金利の指標としてよく用いられるのはTIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate:通称タイボー)です。TIBORは、全銀協TIBOR運営機関のサイト(https://www.jbatibor.or.jp/)で確認することができます。
代表的な3カ月物タイボーは、2016年1月のマイナス金利政策導入以降、0.05%くらいの水準に沈んでいましたが、3月のマイナス金利解除で、ぐーんと上がり、6月末で0.3%になっています。
たとえば、3カ月物タイボーを基準にスプレッド0.5%で融資を受けていたとすると、以前の金利は0.55%(TIBOR0.05%+スプレッド0.5%)、現在は0.8%(TIBOR0.3%+スプレッド0.5%)になります。
短期プライムレートに基づく変動金利
短期プライムレート(短プラ)は「銀行が1年未満の短期の貸出を行う際に用いる最優遇金利」ですが、この説明は実態を表していません。
次の点を押さえるようにしてください。
- 短プラは、日本銀行の政策金利や市場金利の動向、銀行の収益目標などを踏まえて、各金融機関が自主的に定める基準金利
- 基準金利(短プラ)+○%(スプレッド)という形で、変動金利の融資に用いられる
- 短期だけではなく、長期の変動金利の基準金利としても用いられているおり、返済期間が長くなるほどスプレッドの上乗せ幅が大きくなる
- 短プラには金融機関の資金調達力が反映される。このため、メガバンクがもっとも低く、信用金庫がもっとも高い
- 短プラがスプレッド貸の金利を上回るケースが多く、最優遇金利とは言えない
- 低金利下で、相対的に短プラが高くなり、「短プラ+○%」ではなく「短プラ+○%」を用いるケースが多くなっていた
- 短プラは変動金利型住宅ローンの基準金利にも使われている
日本銀行のホームページでは主要行(3メガ、りそな、埼玉りそな)の短プラ(最頻値)が公表されています。
それを見ると、2009年1月の1.475%からまったく動いていませんが、今後、日銀が追加で利上げを行うと、短プラも上がる可能性が高いです。