中小企業の経営改善に強い財務参謀│安田順

中小企業の経営改善に強い財務参謀│安田順

【対応地域】 全国(特に、東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県、茨城県、栃木県)

財務内容の格差はどのように生じるか?

「中小企業の決算書 読み方・活かし方」という本を書いてから、もう4年くらいになります。

たまに「新しい本を出さないのか?」と聞かれるのですが、じつは2年前から、事務所の近くにある某大学院で中小企業に関する修士論文を書きはじめ、それにハマってしまったため、書籍の原稿を書く余裕がありませんでした。

ようやく論文の目処が立ったので、今回は、研究成果というほどでもありませんが、その内容の一部をお伝えしたいと思います。

問題意識が芽生えるきっかけは、ある系列に属す約100社の中小企業のCRDランクをチェックしたことでした。(CRDとは、信用保証協会が保証料率決定に使っている信用リスクデータベースです)

100社の財務内容は、大きく、次の3つのランクに分かれました。

上位ランク:自己資本比率が高く、借金が少ない
中位ランク:自己資本比率10~20%程度、借金はやや多い
下位ランク:自己資本比率はマイナス~10%未満、借金は多い

割合としては、上位30社、中位40社、下位30社くらいでした。

この100社は、規模やエリアは異なるものの、同業界で、同じ製品を同じ方法で販売しています。

上位と下位が均等に割れるのはおかしい。

そこで、各社の決算書をリーマンショックの1年前、2007年からヨコに並べ、財務内容の変遷経路を追うことにしました。

始めてみて、すぐに分かったのは、多くの会社の財務ランクが固定化していることでした。

現在が上位ランクの会社の多くは、リーマン前においても上位ランクの財務内容であり、現在が下位ランクの会社の多くは、リーマン前においても下位ランクの財務内容だったのです。

リーマンショック(2008年9月)と金融円滑化法(2009年12月)を経験した私には、少々意外な結果でした。

上位ランクを維持したグループの経路は大きく「積極投資型」と「節約型」に分かれます。

「積極投資型」は、リーマンで売上が激減した後、すぐに設備投資に着手し、売上回復を図ります。その後も、積極的な設備投資を続け、2017年まで右肩上がりで売上を伸ばします。

「積極投資型」の最大の特徴は、設備投資に連動して売上が伸びる点です。財務比率の回転率(売上高÷資産)がほとんど下がりません。

これに対して、「節約型」は、設備投資に消極的なグループです。売上高はリーマンで2割くらいダウンした後、2014年までほぼ横ばいの状態。ただし、仕入などの変動費を下げ、利益を確保します。経常利益率は毎期2%以上で、赤字になったことは一度もありません。

節約型の多くは、比較的小規模で、固定資産が少ない、無借金の会社です。しかし、2014年の消費増税(5%→8%)以降は、徐々に売上が下がり、運転資金の借入が増えています。

このように、同じ上位ランクでも、「積極投資型」と「節約型」とでは、経営スタイルが異なります。

どちらが正しいとは一概に言えませんが、最近のデータを見る限り、守り一辺倒になりがちな節約型の弱点(売上が伸びない)が目立ちます。

では、下位ランクはどうだったかというと、やはり、リーマン以前からの借金が影響している会社がほとんどでした。

下位ランクが固定化したグループでは、2007年時点の借入金月商倍率(売上高÷月商)が9倍あり、2017年ではこれが9.2倍に伸びます。

10年かけても、月商対比の借金を減らせなかったわけです。

月商9カ月の借金を抱えていては、なかなか融資が降りず、設備投資も思い通りに行えません。

さらに支払利息が負担になります。下位ランクでは、売上に占める支払利息の割合が1.5~1.7%程度で、上位ランクの0.3~0.5%と1%以上の開きがありました。

売上×1%の差は侮れません。それだけの利益があれば、赤字を黒字にひっくり返すこともできるでしょう。

銀行は財務内容が悪い会社には、なかなか金利を下げてくれませんが、やはり下位ランクでは、借入平均レート(支払利息÷借入残高)が次のように高止まりしていました。

2.3%(2011年)→2.4%(2014年)→2.2%(2017年)

これに対して、上位ランクは1%程度まで下がっています。

ちなみに、帝国データバンクの全国平均借入金利動向調査でも、2.15%(2008年)→1.77%(2011年)→1.58%(2014年)→1.33%(2017年)と年々、下がっています。

この10年でものすごく金利は下がっているのに、下位ランクはその恩恵にこうむれなかったわけです。

今回の調査で、意外だったのは、上位ランクにベテラン社長が多いのに対し、下位ランクは、在任期間10年以内の後継社長が多いということです。

実際に面談も行ったのですが、中には「親のために社長になったが、銀行の対応に疲れた」という方もおられました。

たとえば、上位ランクが自主的に単年度計画を作成しているのに対し、下位ランクでは、銀行に言われて、あまり意味のない5年以上の長期計画を作らされたりしています。

長くなりましたので、今回はこのくらいにしておきます。以上、ご参考まで。

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