中小企業の経営改善に強い財務参謀│安田順

中小企業の経営改善に強い財務参謀│安田順

【対応地域】 全国(特に、東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県、茨城県、栃木県)

銀行に「貸し込まれる」とはどういう状態か?

こんな決算書の会社が、銀行から新規融資を受けられると思いますか?

X社の決算数値
●年商5億円
●借入金4億円
●債務超過▲5000万円
●2期連続の営業赤字

おそらく多くの方は、「債務超過では無理」「2期連続赤字では厳しい」「年商5億に対して4億の借入は多すぎる」などと考えるでしょう。

いずれも常識的な見方であり、間違っていません。

ところが、X社の翌期の決算書を見ると、地方銀行から5000万円の新規融資が実行され、借入が4.5億円に増えていました。

なぜ、こんな状態で借りられたのか?

理由は一つしかありません。

X社の社長と親族の個人資産(土地と定期預金)を銀行の担保に差し出しているからです。

たとえ会社が債務超過でも、個人資産があれば、それを返済財源と見なして、銀行は融資を実行できてしまうのです。

私は財務コンサルとして、こういうパターンを何件も見てきていますが、特筆すべき点が一つあります。

それは「こうした会社の経営者ほど、危機感を持っていない」という事実です。

X社の社長にも危機感は感じられませんでした。

私が「なぜこんなに借入が増えたのですか」と質問すると、「そんなに多いですか?銀行は何も言っていませんが」と答えが返ってきます。

銀行は特に忠告せず、淡々と貸し続ける。

だから、社長も「まあ、こんなもんだろう」という認識になってしまうのです。

中小企業の社長は、他社の決算書を見る経験はほぼなく、経営者同士の交流でも借金について突っ込んだ話はしないのがマナー。

だから、唯一の情報源である銀行が何も言わないと、それでいいと思ってしまうのでしょう。

私は、こうした状態を「貸し込まれている」と表現しています。

もし経営者が「いざとなれば個人資産を売って返せばいい」と覚悟しているのであれば、話は別です。

しかし実際には、そんなことはまったく考えていないケースがほとんどです。

本当に問うべきは、「会社の力で、その借金を返していけるのか」という点です。

ここで、損益計算書の形を思い出してください。

経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用(支払利息)

X社の借入金が4.5億円、仮に金利が2%だとすると、年間の支払利息は約900万円になります。

X社の営業利益率が2%だとすると、売上5億円 × 2% = 営業利益1,000万円。

これを上記の式(営業外収益は無視します)に当てはめると
経常利益100万円=1000万円-900万円

営業利益の大半が利息で消えてしまい、経常利益はほとんど残りません。

つまり、本業では4.5億円の返済など到底できない、一生かけても無理ということです。

となると、「一体、何のために融資を受けているのか?」ということになります。

ただ銀行を儲けさせているだけではないか?

だから私は、「貸し込まれている」と表現するのです。

銀行員としてはおそらく「支援しているつもり」なのでしょう。

しかし本当に支援する気があるなら、経営者に対してこう言うべきです。

「このままでは、いずれ返済できなくなり、個人資産まで失いますよ」

それも、X社のような借入過多になる前、もっと早い段階で伝えないと意味がありません。

「いまどき、そんなことがほんとに起きているの?」と思われたかもしれませんが、現実には、今も地方を中心に、こうした中小企業は少なくありません。

金融庁は、以前から金融機関に対し、「担保や保証に過度に依存せず、企業の事業内容を適切に評価したうえで融資判断を行うように」と促してきました。

一見、正論のように聞こえますが、微妙にポイントを外しているように思います。

本当に必要なのは、銀行員が経営者に対し、「このまま借入を増やすと、後で苦しむことになりますよ」と、パートナーとして真摯に忠告すること、そのスタンスです。

しかし、そんな金融機関が現れる気配はありません。

ちょうどいま、銀行員向けの書籍(粉飾決算)を執筆していますので、上記のような実態についても触れておこうかなと思っているところです。

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