中小企業の役に立たない財務指標について
財務に関する教科書やビジネス書を読んで、「この内容は自分の会社に関係あるのか?」と思ったことはありませんか。
巷に出回っている財務の本の多くは、中小企業ではなく上場企業に合わせて書かれています。
よって、中小企業の経営に役に立つ部分と役に立たない部分を色分けして読む必要があるのですが、そのことが結構、曖昧になっていると思うのです。
1.ROEが使えない理由
中小企業の役に立つものであるかどうかの見極めのポイントは、その内容が誰のためのものかという点です。
たとえば、ROEという有名な指標があります。ROEの計算式は、当期純利益÷自己資本です。この式が意味するのは、「株主が出したお金(自己資本)に対してどれくらい利益をあげたか」ということ。完全に上場企業の株主目線の指標です。
上場企業の株主は、単純に、株価の値上がりと配当を求めます。これに対して、中小企業の社長は、自社の株を気軽に売買することはできませんし、配当についても、できるだけ法人税が少なくなるよう、役員報酬で受け取ります。おまけに社長は、銀行借入の連帯保証人です。上場企業の株主とは立ち位置が全然違うわけです。
よって、株主目線のROEは、中小企業の経営の役に立ちません。中小企業の役に立つのは、ROEではなく、ROA(利益÷総資産)の方です。ROAは会社が儲かりやすい体質かどうかを表す重要な指標です。
2.中小企業に財務レバレッジは使えるか?
財務レバレッジ(総資本÷自己資本)という指標があります。これは総資本が自己資本の何倍か、つまり、投資に負債(借金)をどれだけ使っているかを示す指標です(別名は負債比率)。
仮に、資本金100万円の不動産会社が、銀行から1000億円を借りて、不動産投資に成功したら、少ない資本で大きなリターン(配当)を得ることができ、ROEは非常に高くなります。株主としては、こんなふうに会社がつぶれない程度に、借金でたくさん投資してくれた方がおいしいわけです。このため、上場企業の株主は、投資先の財務レバレッジに関心を持っています。
では、中小企業ではどうか?そもそも株主を喜ばせるためにレバレッジをかける必要はありません。
しかしレバレッジという言葉には甘い蜜のような効果があるのか、たまに「経営にレバレッジをかける」とがんがん借金して投資する中小企業の社長がいます。
そういう経営者をみて、私は、「レバレッジをかけた」というよりは、「借金で勝負に出た」と言ったほうが、より適切ではないかと思いました。
財務レバレッジが効果を発揮する大前提は、投資したら、その投資分だけ必ず儲かる(金利以上の利益があがる)ことです。そんな投資対象はめったに見つかりません。
3.企業価値とディスカウントキャッシュフロー
最近の財務会計の書籍には「企業価値」と「ディスカウントキャッシュフロー法:DCF法」が必ず取り上げられています。これは中小企業においても役に立つ理論です
会社から将来得られるキャッシュフローの現在価値を計算し、それを会社の価値とみなすのが、DCF法です。
たとえば、ここに毎年100万円の収益を生み出すハコがあるとして、10年間で1000万円稼げるとしたら、そのハコの価値は「1000万円-金利コスト」となる。会社をそういうカネを生むハコのように見立てるのが、この考え方(DCF法)の特徴です。
中小企業に関係するのは、主にM&Aの時ですが、中小企業のM&Aは、BSの「純資産価格」をベースに行なわれることが多いので、お目にかかることは少ないでしょう。
とはいえ、DCF法の考え方は、お店を売却する際の売却価格の参考値にされる等、いろいろな場面で用いられるようになってきているので、経営者は知っておいた方がいいと思います。
なお、DCFの計算で用いる加重平均コスト(WACC)に関して、中小企業では株主資本コストに「合理的な基準が存在しない」ということも知っておくべきポイントの一つです。
4.EBITDA
最後に、地味なところで、EBITDA(イービットダーまたはイービットディーエー)を挙げておきます。
EBITDAの計算式は「営業利益+減価償却費」です。要するに、営業利益段階のキャッシュフローであるわけですが、それがいまさらなんで?と思ってしまいますよね。
EBITDAの特徴は、会社によって事情が異なる支払利息や減価償却費の影響を排除している点。純粋なキャッシュフローを比較するのに向いているので、企業価値の計算に使われます。
経済産業省が推進する「ローカルベンチマーク」では、EBITDA有利子負債倍率(有利子負債÷EBITDA)という指標が設定されています。キャッシュフローの何倍の有利子負債を借りているかを表すわけですが、EBITDAは支払利息や法人税を含まないため、有利子負債を何年で返せるかを表す指標としては使えません。